Home / ミステリー / クラックコア / 第031-0話 裏目に好かれる人生

Share

第031-0話 裏目に好かれる人生

Author: 百舌巌
last update Last Updated: 2025-02-03 10:31:38

翌日。

 ディミトリは祖母に具合が悪いので、病院に寄ってから学校に行くと伝えた。

 心配して付いてくると言い張る彼女を説得して、一人で出掛けたディミトリは家電量販店に居た。

 ここで小道具の材料を調達するためだ。今回はどう考えても罠にハマりに行くのだ。下準備無しで乗り込むほど自信家では無い。

 彼が購入したのはレーザーポインターだ。それと玩具のリモコンも購入した。このリモコンでスイッチを操作するのだ。

 レーザーポインターは名前の通りレーザーの強烈な光でポイントを示す物だ。普通に使えば便利な道具だが、カメラにとっては脅威となる代物だ。

 レーザーポインターをカメラのレンズに向けて照射する。すると、カメラの中にある電子素子(LCD)は強烈な光で飽和してしまう。つまり、映像をまともに作れなくなってしまうのだ。

 これは空き巣や銀行強盗などの時に、防犯カメラを無効にさせる為に使われる手口だ。本格的なやつは赤外線レーザーを使う。カメラに付いている電子素子(LCD)が早く飽和するからだ。

 目的のものを入手したディミトリは、そのまま例の廃工場に向かった。前日に開けておいた裏口を通り、カメラが設置されている場所までやって来た。

 そして、床に積もった埃に異常が無いのを確かめると、今度はカメラがレーザーポインターで狙い易い位置にやってくる。そこには埃だらけの元資材が積み上げられていた。

 手のひらに入る程度のレーザーポインターなので隠すのは簡単だった。

(よし、仕掛けは出来た……)

 ディミトリはレーザーポインターをダンボールの影に隠して学校へと向かった。どうせ使い捨てなので見てくれは気にしていない。

 道具は役に立ってこそ意味があるとディミトリは考えていた。

 午後から登校したディミトリは何事もなく過ごした。そして、下校時間になると大串の方から声を掛けられた。

 大串は時間をずらされて焦っているようだ。そして、ディミトリが受け渡し場所に下見に行った事には気が付いてないようだった。

「今日はちゃんと来いよ」

「ああ、今夜は何時頃行けば良いんだ?」

「夜の七時に俺の家に来てくれれば田口の兄ちゃんが車で送ってくれるってよ」

 田口というのは子分の一人だ。クラスメートなのだがディミトリは初めて名前を聞いた気がしていた。

「そうか、分かった……」

 ディミトリは素っ気無く返事をした。

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Related chapters

  • クラックコア   第032-0話 嘘つきの目

    大串の自宅前。 武器を捨てられてしまったディミトリは気を取り直して大串の家に向かった。(クソッ! せめて拳銃だけでも無事だったら良かったんだが……) 他にも減音器も捨てられていた。玩具の銃は壁に飾ってあるので、それと一緒に飾っておけば良かったと後悔している。 銃弾は別に保管していたので無事だ。筒状のパイプでも有れば単発式の発射装置が作れるが、工作している暇が無かった。 単純に筒に弾を詰めて、釘か何かで雷管をひっぱたけば良さそうだがそうは簡単にはいかない。 銃弾を固定してやらないと暴発して自身も怪我をするからだ。最低でも薬室を作ってやらないと駄目なのだ。 手持ちの武器らしい武器は自作のスタンガンとスリングショットぐらいだ。これでは心許ない。(致命傷は無理でも牽制には使える程度だな……) 無くなった物を惜しんでも手元には帰ってこない。それより目の前の問題をどうするかの方が大事だ。 しかし、ディミトリの少なくない経験から、ケチが付いた作戦は中止するべきとの教訓もある。(確かに中断するべきだが……) 何よりディミトリには気になる点があったのだ。(何故、俺を指名したんだ?) 取引自体がディミトリを誘き寄せる罠であるのは分かった。だが、何故面倒な真似をしてまで罠に嵌めるのかが謎だ。 それは罠を張った連中を確かめる必要を示唆している。(あの連中が罠なんて面倒な手間をかけるとは思えないんだがな……) あの連中とは鏑木医師を殺害した連中だ。中国語を話していたと思うので中国系と思っていた。 不思議なことに連中は、日数が経過しているにも関わらず手を出してこない。 鏑木医師の事を知っているのなら、ディミトリの事も知っているはずだ。 自分たちの存在が知られたと判明した時点で、自分なら対象の身柄を押さえる。逃げられてしまったら困るからだ。 だが、彼らはそうはしない。銃を持って襲撃するような連中だ。荒っぽい仕事には慣れているはずなのにだ。 これは何を意味するのか? ディミトリには四六時中見張りに付いている連中がいる。その彼らの前で仕事を嫌がっていると捉えていた。 そして、今回の連中は面倒な罠を用意している。これは自分を見張っている連中とも違う事を示唆しているはず。(つまり、今回の罠を張った連中は俺を監視している連中とも、鏑木医師を殺害した連中と

    Last Updated : 2025-02-04
  • クラックコア   第033-0話 蛇悪な眼付

    廃工場。 田口の車から一人で降りて工場の方に歩いていく。午前中と違うのは工場の敷地に入るガードは開けられているぐらいだ。 工場の正面にあるシャッターの脇に普通のドアがある。 ディミトリはノックすること無くドアノブを回して中に入っていった。それと同時にポケットに入っているレーザーポインターのスイッチも入れた。 工場の入口から中に入り、歩きだして五秒ほどで周囲の視線に気付いた。刺すような視線。猛獣が獲物を見定めるかのような視線という類のモノだ。(見張られているな……) 殺意の視線。それは、かつて戦場でスナイパーに狙われた時の感覚に似ている。ねっとりとした感触が戦場を思い出させた。(少なくとも四人はいるかな……) ディミトリに持つ全て感覚センサーがそう告げている。そして、全員を始末せよと言っているのだ。(良いねぇ……) まるで『建物全体が捕食者』みたいな感覚。ディミトリの神経が研ぎ澄まされていく。 工場の真ん中あたりに机が一つだけ置かれており。その前に男が一人座っていた。 コイツが売人なのであろう。視線が泳いでいる癖に眼付がやたらと鋭かった。「よお~……」 売人は陽気を装って声を掛けてきた。まるで古くからの知り合いのようだった。「金なら持ってきた。 女はどこだ?」 ディミトリは懐から金の入っている封筒を見せた。二百万入っているので結構分厚い。 男は工場の奥をチラリと見た。ディミトリが一緒に釣られて見ると金髪の女と顔中にピアスを付けた男が居る。 女の腕を捕まえているところを見るとコイツも仲間なのだろう。「女と引き換えだ……」 売人は奥のピアスだらけの男を手招きした。男は女を連れてやってくる。 この金髪女がカラオケ屋で擦れ違った女の子なのだろう。興味が無いので覚えてなどいない。「ほらよ……」 ピアスの男がぶっきら棒に女を離すと、ディミトリが持っている封筒を受け取った。 そのまま、封筒を売人に渡すと、売人は中身を確認し始めた。ピアスの男は売人には目もくれずにディミトリを睨みつけている。 女はディミトリの後ろで大人しく待っていた。 金を数え終わった売人はニヤリと笑った。全額有ったようだ。「ああ、金の確認は終わった……」「そうかい。 じゃあ、女は連れて行くよ」 それを聞いたディミトリは女を連れて帰ろうとした。「まあ、ちょ

    Last Updated : 2025-02-05
  • クラックコア   第034-1話 寓話の冥王

    廃工場。 二階の暗闇の中から現れたのは暴力団員風の男だ。 その後ろから一人の男が付いてきている。髪の毛を茶髪にして、耳にはピアスを付けていた。子分だろう。 ディミトリが睨み付ける中、短髪男は子分を従えて悠然と階段を降りてきた。「シカトしてんじゃあねぇよっ!」 自分を無視された売人は大声を出してきた。だが、ディミトリは短髪男を睨みつけたままだ。 本能が『要警戒』と告げているのだ。「まあまあ、コイツが若森って奴か?」 短髪男は階段を降りながら声を掛けてきた。何故かニヤついている。自分が優位に立っていると、思い込んでいる男にありがちな反応だ。恐らく懐に何かを持っているのだろう。 そして男はディミトリの顔を知っているようだった。(やはりか……) 名前も知っているという事は、中国の連中の仲間かもしれないと考えた。「大人しくコッチの質問に答えれば痛い目に遭わなくて済むよ……」 短髪男は懐からベレッタを取り出した。イタリア製の優秀な拳銃だ。 余裕が有ったはずだった。(ベレッタか…… 装弾数は十五発だっけ?) ディミトリが銃を見ていると、短髪男は遊底を引いて薬室に弾を送り込んだ。 恐らく、ディミトリが銃を見るのを珍しがっていると勘違いしたのであろう。玩具を手に入れた子供が粋がるようなものだ。「お前が知っている、お宝の有りかを教えて欲しいんだよ」「お宝? 俺の秘蔵のエロ本か??」「舐めんじゃねぇっ!」 馬鹿にされたと思った短髪男は床に向かって引き金を引いた。銃の発射音が室内に響く。空薬莢が床に転がる音が続いた。 急な事に女はビックリして悲鳴を上げてしまっている。「ちょっと、私関係無いんだけどっ!」 女が咄嗟に逃げようとして走り出した。そこを短髪男が発砲してしまった。引き金に指を掛けたままだったのだ。 素人が銃を持った時によくやる失敗だ。 女が急に動いたのでビックリして銃を向けてしまい。その際に引き金に力が加わったのだ。「ぐあっ!」 だが、運の悪い事に狙いが逸れてディミトリに命中してしまった。脇腹の辺りにだ。 万が一の事を考えて防弾チョックを着ていた。しかし、防弾用素材と素材の隙間にある、縫い目を弾丸は通過したようだ。 ディミトリが昔使っていた奴はそうは成らなかった。普通の防弾チョッキには縫い目など無い。 さすが中華製だ。

    Last Updated : 2025-02-06
  • クラックコア   第034-2話 瀬戸際の女

     これはロシア軍の初年訓練でさんざんやらされた訓練の一種だ。もっとも、実際の戦場で役に立ったこと無かった。 接近する時には銃弾を雨のように撒き散らして相手を殲滅するからだ。ドンッ ディミトリは男の腹を目掛けて引き金を引く。そのままの体制でピアスの男・売人・半グレの子分と撃ち続けた。 突然の展開に驚いた彼らは、身を隠すなどという事をしなかった。射撃の的のように簡単だった。 彼らは銃撃戦という物の経験が無いのか、その場に棒立ちのままだったのだ。「……」 工場の中は彼らのうめき声で満たされている。ディミトリは無言のままピアスの男に近づき頭に銃弾を撃ち込んだ。 短髪男の子分も同様に射殺した。 彼らはディミトリが欲しい情報を持っていない。つまり、不要だから処分したのだ。下手に生かしておいて復讐に来られたら面倒だとの考えからだ。「ま、待て…… た、助けてくれ……」 売人の男が哀れな声を絞り出しながら嘆願してきた。「何故、俺を罠に嵌めたんだ?」 ディミトリは売人に尋ねた。「その男に頼まれたからだ……」 売人は短髪男を指差しながら答えた。「そうか……」 ディミトリは売人を射殺した。もう、用は無い。 彼はそのまま短髪男の所にやって来た。「お前は誰の使いで来たんだ?」「うるせぇっ!」「そうか……」 ディミトリは短髪男を射殺した。聞きたい事は山程あるが、ディミトリは治療を必要としている。 生かしておく理由も義理も無い。何より時間が無いので始末したのだった。 すると部屋の中に異臭が漂い始めた。「ん?」 見ると女の足元に水たまりが出来つつ有った。失禁したのだ。それはそうだろう彼女の人生で、殺人を目撃することなど無かったからだ。 ところが、目の前にいる男は躊躇すること無く、銃弾を人間に送り込んでいる。しかも、助命を懇願する相手にもだ。「お前もコイツラの仲間か?」 彼女は盛んに首を振った。彼女の目は一杯に開かれている。恐らく相手に対する恐怖がそうさせているのだろう。「た、頼まれただけです……」「誰に?」「大串くんです……」「本当か? 考えて答えろよ。 お前は死ぬかどうかの瀬戸際にいるんだ……」「誓って本当です……」「ふん……」 きっと、嘘だろう。女相手の尋問は色々と楽しいが今はやらない事にした。時間が惜しい。 出血の度合

    Last Updated : 2025-02-07
  • クラックコア   第035-1話 代償

    田口の車。 ディミトリは女の子を連れて車に戻ってきた。「何か騒いでたみたいだったけど大丈夫か?」「花火の音がしたから様子を見に行こうかと話してる最中だったんだ」 大串や田口が話し掛けてきた。ディミトリは女を三列シートの一番うしろに座らせて、自分は二番目のシートに座っている大串の隣に座った。「その花火の音は銃声よ……」 女は顔を曇らせたまま話した。「え……」 戻ってきた二人の様子がおかしいのは三人とも気が付いていたが、まさか銃声とは思ってなかったようだ。「彼が撃たれたの……」 話を聞いた一同はディミトリの方を見た。手には拳銃が握られているのを、その時に気が付いたようだ。 田口の兄は身を少しだけ乗り出して、ディミトリの様子を窺っていた。心配なのでは無い。銃が本物かどうか気にしているのだろう。「大丈夫だ。 車を出してくれ……」 そのディミトリは脇腹を押さえている。額には脂汗が浮かんで苦しそうだった。「病院に行った方が良くないか?」 それを聞いたディミトリは田口の兄貴を銃床で殴った。 銃で撃たれたと言ってるのに、呑気に病院に行けなどと言う馬鹿に腹が立ったのだ。 そんな事をすれば警察を呼ばれて大事になってしまう。後先を考えない輩は大嫌いなのだ。 そんな頭の悪いやつは殴って言うことを聞かせるに限る。自分がそうされてきたからだ。「こんな傷を見せれば銃傷だってバレちまうだろうがっ!」「すいません…… すいません……」 頭を庇いながら何度も謝っている。いきなり殴られて気持ちが萎縮しているようだった。「それに、あの倉庫には死体が四つもある」「え?」 三人は同時に金髪女を見た。彼女は頷き返した。 それでディミトリが負傷している理由が分かったようだ。「警察呼ばれたら、お前ら全員かなり拙い立場になるんじゃねぇか?」「ああ、そうか……」 やっと、四人ともディミトリが怒った理由に思い至ったようだ。(拙い処じゃないがな……) もっとも、ディミトリが怒ったのは自分も拙い立場になる事だ。この四人がどうなろうと知ったことでは無いと考えている。「ちったあ考えて物を喋れっ! 間抜けっ!」「ぐぅ……」 ディミトリが腹を押さえて苦悶の表情を浮かべていた。かなりの激痛のようだ。「このまま友月橋に向かえ」「え?」 ディミトリは田口の兄貴を銃床

    Last Updated : 2025-02-08
  • クラックコア   第035-2話 身代わり効果

     次にディミトリは大串を銃床で殴りつけた。大串の鼻から鼻血が吹き出し始めた。「テメエは何故俺を嵌めた?」 ディミトリは銃を大串に向けながら言った。「いえ、あの売人の後輩がオタク風の奴に喧嘩で負けたと聞いたものですから……」「そのオタク風ってのは俺のことか?」 銃を大串の頬にゴリゴリと押し当てながら尋ねる。「ええ……」「俺は『ハイ』と言えと注意したはずだ……」「ハイッ!」 大串たちは、ディミトリが何らかの組織に狙われているのは知らない。 きっと、売人の後輩とやらと揉めた事であろうと思っていたらしかった。それだけに銃が出てきたのは驚愕の事態だったようだ。「ソッチだったのか…… クソ共め……」 本当なのかどうかは、今は確かめることが出来ない。今は腹の中にある銃弾をどうにかしないといけないのだ。「明日までに同じ金額を用意しろ……」「え、そんなの無理です……」ドンッ 彼の股間スレスレに銃弾を送り込んだ。シートが焦げる匂いが車内に充満していく。 大串は顔を引きつらせてしまった。「お前の予定なんざ知った事か、この兄ちゃんでも何でも使って用意させろ!」 ディミトリは運転する田口の方を顎で示しながら怒鳴りつけた。「あうぅぅぅ……」 しかし、ディミトリは呻き声を上げてしまっている。 自分の怒鳴り声が腹に響いたようだ。再び腹を押さえていた。「あの、何に使うので……」 田口が恐る恐る尋ねて来た。「医者に金を握らせるに決まってるだろう……」 ディミトリは脇腹を押さえている。押さえていても血が出てきているのが分かるくらいだ。 車は友月橋に到着した。 ディミトリが車を降りる間際に警告を全員に言った。「誰にも喋るんじゃねぇぞ……」「はい……」「もし、警察が俺の周りをウロウロしたら、お前らの母親を真っ先に殺しに行くからな?」「はい……」 車に乗っていた四人は何度も頷いていた。 母親が嫌いな子供は滅多にいない。それを自分の身代わりに殺すと言う脅しは結構効果があるのだ。 そして、ディミトリは実行するつもりだった。裏切り者は許さないのが鉄則だからだ。「その間抜けな頭に叩き込んでおけ……」「はい……」「俺が堪えるのはここまでだ、次はお前もお前の家族も仲良く海底に沈むことになる」「はい……」「俺がどういう風に容赦しないかは、そこ

    Last Updated : 2025-02-09
  • クラックコア   第036-0話 車中の密談

    田口兄の車の中。 ディミトリを友月橋で降ろしてからも、車内は沈黙のままだった。最初に口を開いたのは散々どつかれた田口兄だった。「アイツ…… 本当に中学生かよ……」 田口の兄は愚痴を言い始めた。全員の前で銃でボコボコにされたり、自分のうっかりミスを指摘されたり散々だった。 何よりも中学生に間抜け呼ばわりされたことでプライドを傷つけられたのだ。「ああ、同級生だ……」 大串が答える。最も、あそこまで凶悪だとは思っていなかったようだ。「あの人。 ヤクザたち相手に問答無用で引き金引いてたわ……」「え?」「命乞いする相手にもよ……」 大串の彼女は自分を肩を抱えて身震いしていた。彼女は目の前でディミトリが売人たちを射殺している様子を目の当たりにしていたのだ。 怯えない方がおかしい。「警察に言ったらおふくろを殺るって本当かな?」 田口弟が話しだした。他人に粗暴な振る舞いを平気でするが、自分に悪意を向けられるのは慣れていないらしい。 分かりやすく言うと『ビビって居る』のだ。「全員で引っ越してから警察に通報するとか……」 田口兄が言い出した。彼はディミトリのヤバさがまだピンと来ていないようだ。 何しろ実際に会ったのは今日が最初だ。見た目は大人し目の中学生といった風貌に騙されているのだ。「そんな事をしたら、確実に殺りに来るでしょうね……」 大串の彼女が言い返した。彼女はディミトリの恐ろしさを理解しているつもりだ。それは相手を殺すことに躊躇しない点だ。「みんなは、あの男が無表情で相手を殺しているのを見てないから呑気な事が言えるのよ」 大串の彼女が話し出す。彼女はディミトリが相手に情けなど掛けない種類の人間であるのを確信しているのだ。「人間相手に銃の引き金を引くのは、根性がいると聞いたことがあるけど……」 大串がネットで仕入れた知識を語りだした。古今東西、大量殺人鬼だろうと、人間相手に引き金を引くのは勇気が居るものだ。 兵隊はそれを克服するための訓練を嫌というほどやらされる。そうしないと自分が引き金を引かれる立ち場になるからだ。 最も、どういう風に根性が居るのかは、大串も知らなかった。「アイツ、絶対に他にも人を殺してるわ……」 大串の彼女はディミトリが四人を撃っている様子を話し始めた。最初に短髪男の腹を撃って、その影に隠れながら他の三人

    Last Updated : 2025-02-10
  • クラックコア   第037-1話 闇医者の掟

    アオイのアパート。 ディミトリはアオイの部屋のチャイムを鳴らしていた。片耳にイヤフォンを付けて何かを聞いていた。 直ぐにドアが開きアオイが顔を出した。「すまないが腹に入ってる弾を抜いてくれ……」「今度は銃弾なの?」 アオイは呆れ顔で返事した。それでも、部屋の中に入れてくれる。 信用していないが疑ってはいないようだ。相手の弱みに付け込んで下衆な要求する男が多いのに、ディミトリはそれをしないので気を許しているらしい。「ちゃんと病院に行きなさいよ」 以前は追跡装置を取り出して今度は銃弾だという。街中に防犯カメラで監視してるわ、銃を持ち歩いているわで不思議満載な少年だ。この少年はどんな男なのかアオイは不思議に思っていた。 まあ、中身が中年の傭兵なのはアオイは知らない。「行けるもんならとっくに行ってる……」 ディミトリが弱々しく答える。止血してる布には血が滲み出てきていた。「また、無茶な事したんでしょ」「……」 その時、部屋のトイレから物音がした。アオイしか居ないと思い込んでいたディミトリは咄嗟に銃を向けた。「だ、誰だ……」 ディミトリがトイレに向かって言う。「出て来ないのなら鉛玉を打ち込むぞ?」「待って!」「……」「中に居るのは私の妹よ……」 トイレのドアが開き、女の子が一人出てきた。背格好も顔付きもアオイにそっくりだった。 ただ、残念な部分は姉同様、オッパイが無いところだ。「この人がお姉ちゃんが言ってた子?」 アオイの妹はアカリと言った。大学生になったばかりで、今日は遊びに来ていたらしかった。 ディミトリの事はアオイから話を聞いているらしかった。「ああ、厄介事ばかりを君のお姉さんに押し付けるクソガキさ……」 ディミトリはそう言って銃を降ろした。アオイも釣られて苦笑いを浮かべている。「手術ならしてあげるから銃をテーブルに置いて……」「分かった……」 ディミトリは素直に銃を置いた。「これ、本物?」 銃というものを見たことが無いアカリは珍しがっている。「ああ、まだ七発ぐらい弾が残っているはずだ……」「使ったの?」「ああ、四人殺って来た」 アオイの手がピクリと動いた。ディミトリが冗談を言ってないことは分かるようだ。 それから妹を見て台所に行けと顎で示した。妹も素直に従った。 アオイは自分のバッグから緊急

    Last Updated : 2025-02-11

Latest chapter

  • クラックコア   第088-1話 魅力的な提案

    自宅にて。 ディミトリは剣崎と連絡を取る事にした。「むぅーー……」 ディミトリは机の引き出しに放り込んでおいたクシャクシャにした名刺を広げながら唸っていた。 あの男から有利な条件を引き出す交渉方法を考えていたのだ。(ヤツは俺がディミトリだと知っているんだよな……) それどころか邪魔者を次々と処分したのも知っているはずだ。なのに、逮捕して立件しようとしないのが不気味だった。(金にも興味無さそうだし……) 金に無頓着な人種もいるが稀有な存在だ。自分の身の回りには意地汚いのしか寄って来ないので都市伝説ではないかと疑っているぐらいだ。「ふぅ……」 ディミトリは考えるのを諦めて、携帯電話に電話番号を入力した。 剣崎は電話が来ることを予見していたのか、直ぐに電話に出たきた。『やあ、そろそろ電話が来る頃だと思っていたよ』 相変わらずの鼻で括ったような物言いだった。ディミトリは携帯電話から耳を離し、無言で携帯電話を睨みつけた。「ああ、そうかい。 少し逢って話をしたいんだが……」 気を取り直したディミトリは挨拶もせずに用件を伝えた。『別に構わないよ。 何処が良いんだね?』「デカントマートの駐車場はどうだい?」『ふむ。 いざと成れば手軽に行方を眩ませることが出来るナイスな選択だね』「人目が有った方がお互い安全だろ?」『アオイくんを迎えにやるよ』「分かった」『アオイくんは私の命令で見張りに付いていたんだ。 殺さんでくれたまえ』「分かったよ…… 家の前で待っている」 自宅の前で待っていると、車でアオイが迎えに来た。 ディミトリは後部座席に座り、自分の鞄から反射フィルムを取り出した。これは窓に貼るだけでマジックミラーのようになるものだ。 貼っておけば狙撃者

  • クラックコア   第087-2話 DNA情報

    「この後。 ホームセンターに行ってくれ」「良いですよ。 何か買うんですか?」「灯油を入れるポリタンクを買いたいんだよ」「分かりました」 ホームセンターに行き灯油用ポリタンクを十個程手に入れた。それと一緒にオリーブグリーンのビニールシートも購入した。 それと血痕を掃除する洗剤なども買った。「何に使うんですか?」「灯油を入れるポリタンクって言ったろ……」 ディミトリたちは、そのまま複数の給油所に行き、次々と灯油を購入していった。 一箇所だと怪しまれるのでポリタンクの数分だけ給油所を回っていった。「同じとこで入れれば時間の節約になるでしょう」「一箇所で大量に灯油を購入すると怪しまれるだろ?」「そう言えばそうですね……」「何事も慎重に行動するんだよ」「……」「アンタは何も考えずに行動するから面倒事になっちまうんだ」「はい……」 田口兄は訳も分からずに手伝っていた。ディミトリは買って来た灯油はヘリコプターに積み込む予定だ。 あたり前のことだがヘリコプターを飛ばすには燃料が要る。 本来ならジェット燃料がほしかったが、個人でジェット燃料など購入することは結構難しい。一般的に使われる類いの燃料では無いので売って貰えないのだ。 そこで代替燃料として灯油に目を付けたのであった。本当は軽油が良かったが、ポリタンクで軽油を購入するのは目立つのでやめた。 基本的にジェット燃料と灯油や軽油の成分は一緒だ。違うのは含水率と添加剤の有無だ。 もちろん、正規の物では無いのでエンジンが駄目になってしまう可能性が高い。それでも手に入れておく必要があった。(剣崎の野郎と会う必要が有るからな……) 何故ヘリコプターの燃料を心配しているかと言うと、近い内に公安警察の剣崎に会う必要が有るからだった。 相手の考えが読めないので、脱出手段の一

  • クラックコア   第087-1話 代替品の選択

    大通りの路上。 田口兄が車でやってきた。一人のようだ。「よお……」「どうも、迷惑掛けてすいません……」 ディミトリは憮然とした表情で挨拶をした。 田口兄は愛想笑いを浮かべながら、自分の問題を解決してくれたディミトリに感謝を口にしていた。「……」 ディミトリは田口兄の挨拶を無視して車に乗り込んでいった。「俺の家に帰る前に寄り道してくれ」「はい」 田口兄は素直に返事していた。年下にアレコレ指図されるのは気に入らないが、相手がディミトリでは聞かない訳にはいかない。 何より怒らせて得を得る相手では無いのを知っているからだ。「何処に向かえば良いですか?」「これから言う住所に行ってくれ……」 そこはチャイカたちが使っていた産業廃棄物処分場だ。 確認はしてないがそこにジャンの所からかっぱらったヘリが或るはず。その様子を確認したかったのだ。 処分場に向かう間も無言で考え事をしていた。田口兄はアレコレと他愛もない話をしているがディミトリに無視されていた。 やがて、目的の場所に到着する。山間にある場所なので人気など無い。道路脇に唐突に塀が有るだけなので街灯も何も無かった。 産業廃棄物処分場の入り口には南京錠が取り付けられている。ディミトリは中の様子を伺うが人の気配は無いようだった。「なあ…… ワイヤーカッターって積んである?」 きっと泥棒の道具として、車に積んでいる可能性が高いと考えていた。「ありますよ。 コイツを壊すんですか?」「やってくれ」 田口兄はディミトリに初めてお願いされて、喜んでワイヤーカッターで南京錠を壊してくれた。 後で違う奴に付け替えてしまえば多分大丈夫と考えていた。 中に入るとヘリコプターは直ぐに分かった。ヘリコプターは処分場の中程にある広場のようになった真ん中に鎮

  • クラックコア   第086-2話 同類の事象面

    『はい……』「帰りの足が無くて往生してるんだ」『はい……』 ディミトリは電柱に貼られている住所を読み上げた。田口兄は十五分程でやってこれると言っていた。『あの連中は何か言ってましたか?』「ああ、鞄を返せとは言っていたが、それは気にしなくて良い」『どういう事ですか?』「話し合いの最中にバックに居る奴が出て来たんだよ」『ヤクザですか?』「そうだ」『……』「ソイツの組織と別件で前に揉めた事があってな……」『あ…… 何となく分かりました……』「ああ、かなり手痛い目に合わせてやったからな」『……』 ディミトリの言う手痛い目が何なのか察したのか田口兄は黙ってしまった。「俺の事を知った以上は関わり合いになりたいとは思わないだろうよ」『い、今から迎えに行きます』 田口兄はそう言うと電話を切ってしまった。 大通りに出たディミトリは、道路にあるガードレールに軽く腰を載せていた。考え事があるからだ。 帰宅の心配は無くなった。だが、違う心配事もある。(本当に諦めたかどうかを確認しないとな……) 追って来ない所を見ると諦めた可能性が高い。だが、助けを呼んでいる可能性もあるのだ。確かめないと後々面倒になる。 その方法を考えていた。(家に帰って銃を持って遊びに来るか…… いや、まてよ……) そんな物騒な事を考えていると、違う方法で確認出来る可能性に気が付いた。(剣崎が灰色狼に内通者を持っているかもしれん……) ディミトリの見立てでは剣崎は灰色狼に内通者を作っていたフシがある。 灰色狼は日本に外国製の麻薬を捌く為

  • クラックコア   第086-1話 紳士的な話し合い

    隣町の路上。 店を出たディミトリは、大通りの方に向かって歩いていった。なるべく人通りが或る方に出たかったからだ。 彼らが追撃してくる可能性を考えての事だった。相手が戦意を失っている事はディミトリは知らなかった。だから、追撃の心配は要らなかった。 だが、違う問題に直面していた。(う~ん、どうやって家に帰ろうか……) 学校帰りに大串の家に寄っただけなので、手持ちの金は硬貨ぐらいしか持っていない。ここからだとバスを乗り継がないと帰れないので心許ないのだ。(迎えに来てもらうか……) そう考えたディミトリは、歩きながら大串に電話を掛けた。 まさか、バーベキューの串で車を乗っ取るわけにもいかないからだ。「そこに田口はまだ居るのか?」『ああ、どうした?』「田口の兄貴に俺に電話を掛けるように伝えてくれ」『構わないけど……』 大串が言い淀んでいた。気がかかりな事があるのは直ぐに察しが付いた。「田口の兄貴を付け回していた車の事なら、もう大丈夫だと言えば良い」『え!』「お前の家を出た所で、田口の兄貴を付け回してた連中に捕まっちまったんだよ」『お、俺らは関係ないぞ?』前回、騙して薬の売人に引き合わした事を思い出したのだろう。慌てた素振りで言い訳を電話口で喚いている。「ああ、分かってる。 連中もそう言っていた」『……』「きっと、見た目が大人しそうだから言うことを聞くとでも思ったんだろ」『無事なのか?』「俺が誰かに負けた所を見たことがあるのか?」『いや…… 相手……』「大丈夫。 紳士的に話し合いをしただけだから」『でも、それって……』「大丈夫。 今回は殺していない……」『&helli

  • クラックコア   第085-2話 安心出来ない奴

    「この通りだ……」 ワンは銃を机の上に置いた。そして、両手を開いて見せて来た。「なら、その銃を寄越せ……」 ワンは銃から弾倉を抜いて床に置き、足先で滑らせるように蹴ってきた。ディミトリはそれを靴で止めた。「アンタに弾の入った銃を渡すと皆殺しにするだろ?」(ほぉ、馬鹿じゃ無いんだ……) 彼の言う通り、銃を手にしたら全員を皆殺しにするつもりだった。 ワンはそれなりに修羅場をくぐっているようだ。 ディミトリは滑ってきた銃をソファーの下に蹴り込んだ。これで直ぐには銃を取り出せなくなるはずだ。「鶴ケ崎先生はどうなったんだ?」「おたくのボスに殺られちまったよ」「……」 どうやら、灰色狼は組織だって動いて無い様だ。誰が無事なのかが分かっていないようだ。「それでボスのジャンはどうなったんだ?」「さあね。 ヘリにしがみ付いていたのは知ってるが着陸した時には居なかった」「殺したのか?」「知らんよ。 東京湾を泳いでいるんじゃねぇか?」(ヘリのローターで二つに裂かれて死んだとは言えないわな……) 手下たちは額に汗が浮かび始めた。さっきまで脅しまくっていた小僧がとんでも無い奴だと理解しはじめたのだろう。「ロシア人がアンタを探していたぞ……」「ああ、奴の手下を皆殺しにしてやったからな…… また、来れば丁寧に歓迎してやるさ」 ディミトリは不敵な笑みを浮かべた。 ワンは少し肩をすぼめただけだった。どうやらチャイカと自分の関係を知らないらしい。「俺たちは金儲けがしたいだけだ。 アンタみたいに戦闘を楽しんだりはしないんだよ」「……」 やはり色々と誤解されているようだ。自分としては降りかかる火の粉を振り払っているだけなのだ。結果的に

  • クラックコア   第085-1話  優等生君の豹変

    ナイトクラブの事務所。 ディミトリは弱ってしまった。部屋に入ってきた男はジャンの部下だったのだ。そして、この連中はコイツの手下なのだろう。 折角、滞りなく帰宅できるはずだったのに厄介な事になりそうだ。(参ったな……) ディミトリは顔を伏せたが少し遅かったようだ。男と目が合った気がしたのだ。「お前……」 入ってきた男が何かを言いかけた。その瞬間にディミトリは、右袖に仕込んでおいたバーベキューに使う金串を、手の中に滑り出させた。こんな物しか持ってない。下手に武器を持ち歩くのは自制しているのだ。 ディミトリは車で送ってくれると言っていた男の髪の毛を引っ張って喉にバーベキューの串を押し当てる。 これならパッと見はナイフに見えるはず。牽制ぐらいにはなると踏んでいるのだ。 いきなり後頭部を引っ張られてしまった相手は身動きが出来なくなってしまったようだ。何より喉元に何かを突きつけられている。 兄貴と呼ばれた男と部屋に居た残りの男たちも動きを止めてしまった。「動くな……」 ディミトリが低い声で言った。優等生君の豹変ぶりに周りの男たちは呆気に取られてしまっている。 しかし、入ってきた男は懐から銃を取り出して身構えていた。ディミトリの動きに反応したようだ。「え? 兄貴の知り合いですか?」「何だコイツ……」 部屋に居た男たちはいきなりの展開に戸惑いつつ兄貴分の方を見た。「ちょ、待ってくれ!」 だが、兄貴と呼ばれた男が意外な事を言い出した。(ん? 普通はナイフを捨てろだろ……) ディミトリは妙な事を言い出した男に怪訝な表情を浮かべてしまった。「俺は王巍(ワンウェイ)だ。 日本では玉川一郎(たまがわいちろう)って名乗っているけどな……」「ああ、ジャンの手下だろ…… 倉庫で

  • クラックコア   第084-2話 危険な知り合い

    「田口君のお兄さんが鞄を持って行ったって何で解ったんですか?」 大串の家で聞いた限りでは誰にも見られていないはずだ。だが、現に田口の家ばかりか交友関係まで把握しているのが不思議だったのだ。「防犯カメラに田口が鞄を弄っている様子が映ってるんだな」 一枚の印刷された画像を見せられた。防犯カメラと言うよりはドライブレコーダーに録画されていたらしい画像だ。 黒い革鞄と田口兄が写っている。それと車もだ。ナンバープレートも写っていた。(泥か何かで隠しておけよ……) 泥棒は車で移動する時にはワザと泥などでナンバープレートを隠しておく。防犯カメラに備えるためだ。「鞄を返せと言えば良いだけだ」「鞄の中身は何なの?」 何も知らないふりをして質問してみた。「中身はお前の知ったこっちゃない」 男はディミトリをギロリと睨みつけながら言った。「まあ、そんなに脅すなよ。 中身はそば粉と子供玩具と湧き水を容れたボトルさ」「?」 子供騙しのような嘘だとディミトリは思った。「この写真を見せながら言えよ?」 ボス格の男はそう言うと何枚かの写真を投げて寄越した。 写真には田口と田口兄。それと一組の夫婦らしき男女の写真と、小学生くらいの女の子の写真があった。田口の家族であろう。 最後は故買屋の防犯カメラ映像だ。鞄の処理の前に銅線を売りに行ったらしい。 普通の窃盗犯であれば仕事をした後は暫く鳴りを潜めるものだ。そうしないと探しに来る者がいるかも知れないのだ。(ええーーーー…… 素人かよ……) 余りの幼稚な行動にめまいがしてしまった。「そば粉なら、また買えば良いんじゃないですか?」 ディミトリは話の流れを変えようと言い募った。 窃盗した後に迂闊な行動をする馬鹿と、見張りも立てずに取引物をほったらかしにする素人など相手にしたくなかったのだ。「そば粉は別に良い。 ボトルを返せと言えば良い……」 ここで、ピンと来るモノがあった。(そば粉だと言う話は本当だろう……) 見つかった時の言い訳用だ。拳銃が玩具だというのも本当だろう。万が一、職務質問で見つかっても警察が勘違いだと思わせることが出来るはずだ。 ボス格の男が色々と蕎麦に関してのウンチクを並べているがディミトリの耳に入って来なかった。(だが、ボトルの中身は…… 麻薬リキッドだな……) ディミトリはボトル

  • クラックコア   第084-1話 見かけは優等生

    大串の家の近所。「いいえ、別に友達ではありません……」 ディミトリは警戒して言っているのでは無い。本当に友人だとは思って居ないのだ。「でも、田口のツレの家から出てきたじゃねぇか」 男の一人が大串の家を顎で示しながら言った。 これで男たちが田口を尾行して、彼が大串の家を訪ねるのを見ていたと推測が出来た。「学校でクラスが同じなだけです……」 ちょっと、面倒事になりそうな予感がし始め、ディミトリは警戒感を顕にしていた。「ちょっと、オマエに頼みたいことが有るんだ」 男が手で合図をすると車が一台やって来た。やって来たのは白の国産車だ。 大串たちの話ではグレーのベンツだったはずだが違っていた。「ちょっと、付き合ってくれ」 開いた後部ドアを指差した。「クラスの連絡事項を伝えに来ただけで、僕は無関係ですよ?」 妙齢のお姉さんであれば喜んで乗るのが、おっさんに誘われて乗るのは御免こうむるとディミトリは思った。「田口に届け物を渡して欲しいんだよ」「それなら、おじさんたちが直接渡したらどうですか?」 ディミトリは尚もゴネながら逃げ出す方法を考えていた。「良いから。 乗れって言ってんだろ?」 ディミトリを知らないおっさんは頭を小突いた。瞬間。頭に血が上り始めた。(くっ……) だが、人通りもあって我慢する事にしたようだ。今はまだディミトリは冷静なのだ。ここで、喧嘩沙汰を起こすと警察が呼ばれてしまう。それは無用な軋轢を起こしてしまう。 それに相手は中年太りのおっさんが三人。ディミトリの敵では無い。チャンスはあると思い直したのだった。(周りに人の目が無ければ、コイツを殺せたの……) ディミトリは残念に思ったのだった。 こうして、ディミトリは大串の家から出てきた所を拉致されてしまった。 連れて行かれたのは中途半端な繁華街という感じの商店街。端っこにあるナイトクラブのような地下の店に連れ込まれた。 まだ、開店前らしく人気は無かった。その店の奥にある事務所に連れ込まれた時に、白い粉やら銃やらをこれ見よがしに置かれているのを見かけた。(ハッタリかな……) まるで無関係の奴に見せても益が無いはずだ。ならば、ハッタリを噛ませて言うことを効かせようという魂胆であろう。 ヤクザがやたら大声で威嚇するのに似ていた。「よお、坊主…… 済まないな……」

Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status